師匠シリーズ 【師匠シリーズ】怪物 幕のあとで 疲れ果て、最後の気力を振り絞って自転車を漕いでいた私は、家まであと少しという場所まで来ていた。 すべてが終わったという安心感と、なにもできなかったという無力感で、力が抜けそうになる足を叱咤してどうにか前に進んでいた。 両側に家が立ち並ぶ住宅... 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】怪物「結(後編)」 遠巻きにそれを眺めることしか出来ない私たちが動きを止めているその前で、徐々に犬の立てる物音が小さくなり、やがて湿り気のある呼吸音だけになる。 空腹を収めることが出来たのか、犬は始めとは全く違う緩慢な動きで舌を這わせ、口の周りを舐め始める。見... 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】怪物「結(前編)」 その日の放課後、私は3年生の教室へ向かった。 ポルターガイスト現象の本を貸してくれた先輩に会うためだ。廊下で名前を出して聞いてみるとすぐに教室は分かった。 先輩は私の顔を見るなりオッ、という顔をして手招きをしたが、席まで行くとすぐに両手を... 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】怪物「転」 図書館からの帰り道、私はクレープを買い食いしながら商店街の路地に佇んでいた。 夕焼けがレンガの舗装道を染めて、様々なかたちの影を映し出してる。 道行く人の横顔はどこか落ち着かないように見える。 みんな心の奥深い場所で、説明しがたい不安感を抱... 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】怪物「承」 怖い夢を見ていた気がする。 朝の光がやけに騒々しく感じる。 天井を見上げながら、両手を頭の上に挙げて伸びをする。自分が嫌な汗を掻いていることに気づく。 掛け布団を跳ね除けて身体を起こす。 夢の残滓がまだ頭の中に残っている。 現実の眼は... 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】怪物「起」 京介さんから聞いた話だ。 怖い夢を見ていた気がする。 薄っすらと目を開けて、シーツの白さにまた目を閉じる。鳥の鳴き声が聞こえない。 息を吐いてから、ベッドから体を起こす。静かな朝だ。 どんな夢だっただろうと思い出しながら記憶を辿ろうとす... 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】三人目の大人 小学校2年生の教室で、図工の時間に『あなたの家族を描いてね』という課題が出た。 みんなお喋りをしながら色鉛筆で画用紙いっぱいに絵を描いた。 原っぱにお父さんとお母さんと女の子がニコニコ笑いながら並んでいる絵。 スベリ台のようなものに乗って... 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】天使(後編) 天使(前編)はこちら 4日後、あの日早退して以来休んでいた高野志穂がようやく登校してきた。 青白い顔をして、緊張気味に唇を固く引き結んだまま誰とも挨拶を交わそうとしない。 気がついていなかっただけで、あるいは彼女はいつもそうだったのかも... 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】天使(前編) 京介さんから聞いた話だ。 怖い夢を見ていた気がする。 枕元の目覚まし時計を止めて、思い出そうとする。 カーテンの隙間から射し込む朝の光が思考の邪魔だ。 もやもやした頭のまま硬い歯ブラシをくわえる。 セーラー服に着替え、靴下を履いて鏡の前、... 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】古い家 ※今作は、主人公の師匠と「師匠の師匠」にあたる加奈子さんの2人のお話です。 聞いた話である。 「面白い話を仕入れたよ」 師匠は声を顰めてそう言った。 僕のオカルト道の師匠だ。 面白い話、などというものは額面どおり受け取ってはならない。... 師匠シリーズ