証明写真 ~伊集院光さん 芸能人の怖い話~

芸能人の怖い話

これは俺の知り合いの元芸人の話なんだけど…。

東京で何年も芸人をやってたんだけど芽がでなくて、もう地元に帰って就職する事にしたですよ。

田舎っていうのは群馬かなんかの田舎で、実際に地元に帰っちゃうと、地元の友達には「東京に出て芸人になる!」って言ってきた手前会いたくないし、それに何より踏ん切りがつかないから、しばらくウダウダゴロゴロ実家でしてたんだって。

でもある日、夜中の一時位にガバっと目が覚めて、
(このままじゃいけない!このままだとダメ人間になってしまう。ちゃんとやり直さないと)
って思ったんだって。

親の紹介とかで就職先のあてはあるから、
(明日朝一でそこの会社に履歴書を持っていって、きちんと挨拶しよう)と。

ここで寝ちゃうとまた昼ごろ起きて明日が明後日になって、それがまた次の日になってとウダウダするから、今日はこのまま起きて履歴書を書いて、その足で行こうと。

でも正式な書類には写真がいる。
それで(写真どうしようかな…)って考えていたら、商店街のはずれに、中学校の時の同級生で斉藤君という子の実家がやっている、
「サイトウストア」っていう大きなスーパーがあるのを思い出したんだって。

そこは地元では結構大きなスーパーで、そこの1階に「3分間写真のコーナー(24時間やってるようなやつ)」があるのを思い出して、とりあえずそこに行ってみようと。

それで夜中の商店街をトボトボ歩いているんだけど、改めて地元の商店街を見てみると、シャッター通りというか…不況で閉めちゃってるお店もいっぱいあって…。

昔は点きっぱなしの看板があったり、自動販売機が光ったりとか、アーケードにも蛍光灯がちゃんと入ってたんだけど、もう蛍光灯は点いたり消えたりしてたり…消えちゃってるものもあって。

(ああ、もうずいぶん寂れちゃったんだな…なんだか不気味だな…)
なんて思いながら、先を急いで歩いていく。
でも、行けば行くほど商店街はどんどん寂れて、どんどん暗くなるのよ。

それでやっと「サイトウストア」についたら、完全に閉店していて、もう廃墟みたいになってる…。

(地元で一番大きな店だったのに、こんなんになっちゃって…真っ暗じゃないかよ)
そう思って見てたら、潰れたその店の中にも3分写真はまだあるみたいで、ちょっと緑い色の明かりがついてて…。

(早く写真だけでも撮って帰ろう)
それでそっちに歩いていったら、そんな時間なのに中で誰かが写真撮ってるんだって。
カーテンが閉まってて。

(なんだよこんな時間に3分間写真撮ってるのかよ…でもまあ俺も思いついて来た感じだし人の事言えないな…)
そう思いながら見てたら、カーテンが閉まってて足元だけ見えるじゃない?
そこから真っ赤なスカートの裾と、白くて細い足と、真っ赤なハイヒールが見えたんだって。

(女なんだ…)
待つしか無いから、どっか座れるところはないかと探すんだけど、廃墟だし真っ暗で気持ち悪いし、どうしたものかなと。

それで前を向いたら…
もうカーテンは開いてて誰もいないの。

(ええ…!?さっきまで中にいたのに…)
そうは思ったんだけど、写真を撮るしかないから中に入ってカーテンを閉めて。
それで椅子を調整して高さをあわせて、お金をいれて。
お金をいれると撮影がオートではじまって…

(さあ写真撮るか)
そう思ってると、

『わたし綺麗になったでしょ?』

『わたし綺麗になったでしょ?』

急に声が聞こえて…
今度はカーテンの向こう側に赤いスカートの女の足が見えるんだって。

(なにこいつ…なにこいつ…)
そう思うんだけど、もうお金はいれちゃってるし、
お金を無駄にはしたくないから、前に向き直って普通にするんだけど、
ずっとカーテン越しに声が聞こえてくる。

『わたし綺麗になったでしょ?』

『わたしお洒落になったでしょ?』

『わたし綺麗になったでしょ?』

その声に耐えて何とか顔を作って写真を撮って、(この野郎!)と思ってカーテンを開けたら、また誰もいないんだって…見渡す限り真っ暗で…。

(なに?あの女はなんなの?ちょっと頭キテるんじゃねえの?)
早くその場を離れたいんだけど、古いタイプの3分間写真ってすぐに写真が出てこないんだよ。
中で現像してるのか乾かしてるのかわからないけど、しばらく経ってから出てくる。

それで表に立って(早く出てこないかな…)って待ってたら、
しばらくして写真がコトンって出てきて、
(さあ帰ろう)って思ったら向こうの暗闇のほうからさっきの声がする。

『ねえ、わたし綺麗になったでしょ?』

『ねえ、わたしお洒落になったでしょ?』

もう怖くなって、そのままダッシュで走って、商店街の入り口のところまで来たところで、
向こうから車がやってきて、こっちにクラクション鳴らすんだって。
(なんだ?)って思ってたら、それは中学校の時にすっごい仲よかった友達で、もうほっとしちゃって。

「うあー、お前久しぶりだな!」

「お前こそ!東京いってたんだろ?帰ってきたの?」

「うん帰ってきたんだよ!この辺も変わったろ?」

なんて会話をはじめて。

「あ、そういえばさ変わったっていえば、あのサイトウストアって潰れたの?」

「あれ?お前知らないの?結構な騒ぎになって、ニュースにも出たよ?」

「いや俺全然知らないけど…何?」

「何から話せばいいかな…中学の時にさ同じクラスに吉田って太った女いたろ?」

「ああ!いたね。陰気臭くてほとんど喋らなくて、真面目でメガネかけてて」

「そうそう。その吉田がさ、斉藤に惚れたんだよね。

斉藤も女好きだからさ、カミさん居るのに何回かやったらしいんだよ。
で、吉田が真面目だからそうなっちゃったんだけど…。
斉藤のカミさんにバレちゃって、結構な修羅場になっちゃったんだって。
それで夫婦揃って吉田に結構ひどい事言っちゃって…。
まあこれは噂なんだけど、ブタだとか、ブスだとか、てめえは自分の顔を鏡で見た事あるのかとか、少しは洒落た服着て来い!ねずみ色の服ばっか着やがってとか…。
それが原因で吉田は心の病気になっちゃって、しばらく家に閉じこもったまま出てこなくなったみたいでさ。

でも斉藤のほうははカミさんの機嫌も直ったし何事もないように働いてたんだけどさ…それから一年くらい経った夏のすごく暑い日の昼間に、すごい奇声を上げながら吉田がサイトウストアに飛び込んできて、その場で頭からガソリン被って焼身自殺しちゃったんだよ…。

それでそんな事があったから当然店には客が寄り付かなくなっちゃうし、
斉藤はカミさんに逃げられちゃうし、店潰れたうえに斉藤も居なくなっちゃったんだよ」

「そ、そんな事あったんだ…お、俺…さっきあの…サイトウストアの…赤いドレスのさ…」

「なんだお前知ってんじゃん?そう!赤いドレスだよ!吉田は赤いドレスを着て入ってきて、頭からガソリン被って真っ赤に燃え上がって、その場で死んだんだよ」

慌ててさっき掴んできた写真を見たら、自分の写真じゃないの。
それは一個前に撮った写真なの。

真っ黒焦げの女の顔が4枚写ってるの。

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