これは20年ほど前のこと、私がまだ小学生だった頃の話です。
当時、私は人口が3000人もいないとある村に住んでいました。
そこは自然豊かなその村では両親がよく川へ釣りに連れて行ってくれたり、山でキャンプをしたりと毎日がとても充実していました。
大学進学を機に上京しましたが、今でも私は実家のあるその村が大好きです。
ただ当時私には一つだけ気がかりなことがありました。
それは、実家から学校までの通学路に立っている「お地蔵さん」のことです。
皆さんも、道端にお地蔵さんが立っているところを見たことがあるかと思います。
花が供えられていたり、苔むしていたり、その姿はさまざまですが、
基本的には道側を向いているものばかりですよね。
しかし、そのお地蔵さんは通常のそれとは違い、道側とは逆の方向、薄暗い林の方を向いていたのです。
それがどうも私には不気味に感じ、その「逆地蔵」の前を通る時にはできるだけそっちのほうを見ないように、通学しておりました。
ある日、私はなんでお地蔵さんが道端に立っているのか不思議に思い母に聞いたことがありました。
母「お地蔵さんはね、林の向こうから悪いものが入ってこないように守るために置かれているのよ」
悪いものとはなんなのかが気になりましたが、何となく怖くなってそれ以上聞くのをやめてしまいました。
ある日のこと。
学年が上がると同時に両親が新しい自転車を買ってくれました。
私はすごく嬉しくなって、自転車でどこへでも行けるような気がして、普段いかないような場所にも「探索」をするようになっていました。
その時の私はまるでゲームの主人公のような気持ちで、帰る道が分からなくなるかもしれないという恐怖も感じず、いろんな場所を巡っていました。
そして、その日もいつものように自転車でいつも行かない場所を探索していると、私の家の近くにある逆地蔵と同じように道側と逆側を向いているお地蔵さんを見つけました。
ちょうどそこは丘の麓のような場所でそこからは遠くの方に私の家も見えました。
どうやらそのお地蔵さんは私の家の方角を向いているようです。
少し不気味に感じながらも、道沿いに自転車で漕いでいくとまた、逆地蔵が見つかりました。
どうやらそららの逆地蔵は一つの場所を取り囲むように、同じ場所をみつめているようでした。
そのことがとても異様に感じられ恐怖を抱いた私は、その場から逃げるように私の家へと帰りました。
その日の晩は一人でお風呂に入るのも、夜眠るのもとても怖かったことをよく覚えています。
次の日、私は学校で昨日見た逆地蔵の話をしました。
「へえ、なんか面白そう」とA君
「なにがあるんかなあ」とB君
「お宝があったりして!」とCちゃん
そして、3人は「その場所を探索しよう」と言い始めました。
私は当初、乗り気ではなかったものの、何度か説得されたのと、好奇心には勝てずに、結局その場所まで案内をすることになりました。
B君「おーここかーたしかに逆向いとるなあ」
Cちゃん「ほんとやねーなんかこわい」
A君「地蔵がどこ向いてるのかたしかめようや」
私は怖くて一度は反対しましたが、結局はまた、好奇心には勝てずにA君についていき林の中を入っていきました。
30分ほど歩いた頃だったでしょうか。
しばらく林の中を歩いていくと、そこには小さな祠がありました。
その小さな祠は古びていて、随分と苔むしていたのですが、その中に丸くて野球ボールほどのきれいな石の玉が飾ってあります。
その時、A君が突然、「記念に持って帰ろう」と言い出しました。
何の記念なのだろうと思い、最初は冗談かと思っていたのですが、どうやら本気の様子です。
B君は我関せずといった感じでしたが、私とCちゃんはそのことに反対をしていました。
私「もとに戻したほうがいいって」
Cちゃん「持って帰るのはよくないんやない?」
私が反対していた理由は、当然、こういう物を勝手にとってはいけないという思いがあったからですが、それよりも、もしかしたら呪われてしまうのではないかという恐怖の気持ちからでした。
しかし、A君は私たちが反対しているのは意に返さずといった様子で、その玉をとると笑いながら今まで来た道を向き、走り出しました。
私たちはまるで鬼ごっこのようにA君を追いかけ走っていきます。
その後も、戻したほうがいいとA君に何度も言いましたが、よほどその玉がrr気に入ったのか、結局A君は、その玉を家に持って帰ってしまいました。
それから数日が経った頃のことです。
A君は学校からの帰り道、車に轢かれ亡くなってしまいました。
私はそれを次の日に先生から聞かされた時、「A君は呪われてしまったのかもしれない」と不謹慎にも思ってしまいました。
当然、A君がその玉を持って帰ったことと何の関係もなく不運な事故に遭ってしまっただけかもしれません。
それでも私は20年もたった今でも気になっていることがあります。
それはなぜ私の通学路にある逆地蔵がその日以来、
私の家のほうを向くようになってしまったのかということです。
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