昨日一昨日と、ケイさんと職場の友人達と京都に行って来た。
ケイさんの誕生日だったことと、両親の墓参り、そして俺が今年の旅行の幹事に任命(押しつけられた)されたので候補地の下見に行くという理由の為に皆を巻込んで。
久し振りの京都に興奮した俺達は墓参りをした後はそれなりに観光地をウロウロして、湯豆腐とか食って、アンミツで胸焼けしたりしながら遊び回っていたんだが、
同期の松田が縁結びの御守りを買いたいと言い出したところから、せっかくの旅行はおかしくなった。
到着した縁結びが有名な某神社で御守りを吟味していると、隣りに女の子が並んだ。茶色いコートを着ていて、結構可愛かったように思う。
女の子は美容の神様だったかの絵馬を買い、その場に台とペンがあるのに願いを書こうとはせず、絵馬を抱えてフラフラとどこかに行ってしまった。
俺は特に気にならなかったが、珍しく真剣な様子で絵馬を書いていたケイさんが顔をあげて言った。
「あの女、ちょっとヤバイな」
なんでですか?と聞き返すが、「足りない頭で考えろ。なんでも俺に頼んな。死ね。」と冷たい返答が返ってきた。
しかしそんなことを言われたらやっぱり気になるし、
よくない、とは思いつつも俺は女の子が歩いて行った方向に向かった。要するに後をつけたわけだ。
だってあの子は生身の人間だし怖いこともないだろうし。
しかしすでに遅かったようで女の子の姿はすでに無く、あたりを見回すが誰もいない。
角を曲がって林のようなところに差し掛かったところで、仕方なく俺は皆のところに戻ろうとした。そのときだった。
ザクッ ザクッ ザクッ
何かが突き刺さるような音が林から聞こえた。ちょっと近付いて中のほうを覗くと、人がいた。さっきの女の子だ。女の子は地面にしゃがみこんで何かをしている。そっとちょっとだけ近付いて見てみて、俺は鳥肌が立った。
女の子は、さっきの絵馬をナイフのようなもので刺していた。絵馬には写真のようなものが重ねられている。
途中に手でも切ったのか、ナイフや絵馬に血がついている。なのに女の子は無言のまま一心不乱に絵馬をメッタ刺しにしていた。
ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ
抜いては刺して、抜いては刺しての繰り返し。怖い。つか気持ち悪い。何これ。何この女。あまりにも不気味な光景に俺は後ずさった。だが。
「…なに見てんのよ」
低い声がした。女の子が、ゆっくり振り返る。
「 な に 見 て ん だ よ お ぉ お !!!!」
女の子が立ち上がった。さっきの可愛らしい雰囲気は無かった。手にはナイフと、ボロボロになった写真と絵馬。コートには赤黒い染み。ギリギリと歯を食いしばって、血走った目が、俺を睨み付けて来る。
殺される、と思った。
だってこの子は生身の人間だから。幽霊なんかと違って、物理的に、そして確実な危害を与えられるから。俺は好奇心に負けて他人の行動に首を突っ込んだことを死ぬ程後悔した。
女の子はゆっくり近付いてくる。俺は怖くて背を向けて逃げることもできず、後ずさるだけだった。そのとき、
「シュウヘーイ!!シュウヘイヘーイ!!」
と、間抜けな呼び声がした。松田の声だ。これはチャンスとばかりに俺は一目散に飛び出した。女の子は「あっ」と小さく呟き、追いかけて来た。
林から出てすぐのところに松田とケイさんがいた。松田は「急げ!!」といい、ケイさんには「マジで死ね!!」と無理矢理腕を引っ張られて走らされた。それ以上女の子は追いかけては来なかった。
神社を出て車に乗り込んだところで、俺は案の定ド叱られた。松田にははたかれ、ケイさんには怒鳴られる。
「ああいう女は何するかわかんねえ。生身の人間は俺でもどうにもしてやれねえし。馬鹿やって死ぬのは勝手だが俺に迷惑かけんなクズ」
と散々な言われようだった。元はと言えばアンタが変なこと言うからだ、と言いたかったが勿論言えなかった。
頭の中であの女の子の顔が渦巻いていた。あのとき松田たちが来てくれなかったら俺もあの絵馬のように…そう考えると寒気がした。
あの女の子がやっていたことはいわゆる「丑の刻参り」みたいなものなんだろうか?知ってるひとがいたら教えて欲しい。
その後、ホテルにてお約束通り金縛りにあったりしたが、俺はあの女の子の形相のほうが、よっぽど怖かった。
生きてる人間が、一番怖い。
よく聞く言葉だけど、ほんとにそうだな、と初めて思った。
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